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有元利夫展を観る前に知っていると面白いかも知れない幾つかの事柄 #2 [ART]

2.花降る螺旋の坂道は、バベルの塔か煉獄山か

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◆有元利夫 / 『花降る日』(1977) 三番町小川美術館蔵
この画像は本展覧会のカタログのボックス・ケースをスキャンしたものです。

 『花降る日』は、僕が有元を知ったごく初めの頃に作品集で目にして気に入っていた作品の1つです。逆に云うと、この絵がアンテナに引っかかったから、僕は彼に興味を持ったのです。

 この絵が認められて、有元は画壇の芥川賞とも云われる安井賞の選考に於いて、第21回安井賞展選考委員会賞を獲得するのですが、そもそも安井賞にはそんな賞は存在しなくって、この絵を巡って審査員たちの議論が様々に紛糾した末、今回のみの特例措置として贈られることになった前代未聞の賞でした。

 この螺旋の山を、バベルの塔やダンテの神曲に登場する煉獄山になぞらえる専門家筋の解説があります。今回の図録に寄稿されている千足伸行先生の御説もそう。成る程、さすればその頂は神の生わす天に最も近い場所であり、浄罪を終えた祝福を受ける天国の入り口でもあるわけで、ボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』のごとく、空から花が降るくらいの奇跡は起きて当たり前なのかも知れません。だた、僕は有元さんの遺した文章からは、それ程までにハッキリとした文学や宗教色の濃いストーリーを作品に織り込んでみたとは、どうも思えないのです。だって、読めば皆思う筈じゃないのかな。作品の物語性を受け取る側に極力限定されたくないからと、登場人物の手や足を敢えて描かないまでして心を砕いていた作家なのに、と。

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◆ボッティチェッリ / 『ヴィーナスの誕生』(1484年頃)の一部

 どうも美術の専門家は、絵画の中に文学や宗教を持ち込んで、より深遠なものとして複雑な解釈を与えるのが好きと見えて、話が難しくなっていけません。展覧会の図録に載せられた学芸員の文章が、六法の条文を読むよりも、よっぽども難解だったりもしますから(苦笑)。


 ところで、この螺旋の山。よくよく見れば、まるでホールのスポンジケーキがウエディング・ケーキのそれの様に段々に積み上げられているだけで、ちっともスパイラルになっていないのでは?。画面に隠された向こう側には昇る為の梯子が有ったりしてね(笑)。なんだか、エッシャーの騙し絵よりも余程とぼけている様で、見ている僕は何だか微笑みたくなる様な、愉快な気分になるのです。それはきっと、妻の容子さんのこんな有元利夫評を読んでいるせいだとも思うのです。

 有元をひとことで言うと「朗らかな人」。(中略)末っ子というだけではない、なんとなく気がつくと人の心の中に入り込んでいるような、人懐こく何をやっても憎めないようなそんなところがあった。(新潮社、『花降る日」より引用)


 ここでまた要らぬ雑学(^^;。
 ダンテの『神曲』に登場する煉獄山には実はモデルが在ったと云われています。それが、現在のサン・マリノ共和国のすぐそば、前述したウルビーノ公の領土にあった出城、サン・レオ。切り立った断崖にそびえるその姿から、「法王は一人、神も一人、要塞はサン・レオがただ一つ」と呼ばれ、ダンテは煉獄山の峻厳な様を表現する為に、サン・レオの坂道の険しさとを比較にして歌っているんだとか。
 この要塞は後に監獄としても利用され、映画にもなったマリー・アントワネットの首飾り事件にも登場する稀代のペテン師、通称カリオストロ伯爵が異端信心の咎でローマにて捕まり収監され、4年4ヶ月の後に牢死した場所でもあるんですって。




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